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写真については後で追加します。
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別刷                                      平成17年度研究紀要
     炭焼き窯からの排煙による煙害対策についての研究


    岩崎 眞理1    荘司 和夫2   糸井 節3
    Masato IWASAKI     Kazuo SHOUJI     Misao ITOI



 はじめに

 昭和40年ごろまでは炭焼き窯は山の中にあったが,その後日本列島改造論による山野の開発
が始まり,今までの炭焼き窯が一般住宅の近くや,住宅地の中に取り込まれた炭焼き窯もあるよ
うになってきた。排煙に含まれている刺激臭と粒子状物質が,周辺に広がり,その地域住民から
の苦情が多くなり,その結果,炭焼きを廃業せざるを得ない方たちも多くなってきた。その排煙
の刺激臭の代表的な物質は酢酸であり,その特有な臭いのために特に嫌われている。今回の実験
は炭焼きの排煙をプロパンガス及び灯油ガス化バーナー炎による焼却による無煙化と無臭化を行
う煙害対策の1つのモデル実験として参考になれば幸いである。


 キーワード

木炭,炭焼き窯,岩崎式炭焼き,煙害,公害,木酢液,草焼きバーナー,環境問題,
地域活性,地球温暖化防止,炭素固定

1.炭焼きから出ている煙

 炭焼きからの排煙の主成分は酢酸である1) 。酢酸は日常家庭で,お酢として食用に使わ
れている。しかし排煙の臭や灰などが洗濯物などに付着し汚れることが,問題となっている。
この事実を踏まえ,地域の方々と融和を計り,山野の荒れ放題の山林や竹林の伐採を行い,
それを炭にすることが炭焼きの方々の生活の基盤となり, かつ地域の方々と共存すること
が必要となってきた。また木炭の一つの利用として酸性土壌に木炭の粉末を埋めることに
                                        
1足利工業大学附属高等学校電気科 †2,3 足利工業大学電気電子工学科



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より炭が持つアルカリ成分による中和ができる2)。そして炭素の固定となり地球温暖化対
策における二酸化炭素の削減となり,日本の未来の山野の森林を守り,かつ炭焼きの方々の
生活を守ることになる。これは炭焼きの過去からの歴史を守ることと考えられる。炭焼き
窯は小さい缶を利用した物から大きい土窯や工業用炭化炉や連続回転炉まである。そして
火入れの時間が半日から3日程度の窯があり。工業炉の場合には連続して火入れを行って
いる物も有る。内部温度に関しては昔からの土や石で出来た炭焼き窯は低温(650℃前後)
であり,高温の備長(1000℃以上)窯の炭化時間には3日以上かかる物が多い。大型の工業
用炭化炉3)では固定型と回転炉の二つに分けられている。固定型では長方形の窯を並列に
並べたものが多く、それに高温の空気を送り込むことにより炭化させる。回転炉は円柱の
回転炉に木材などのチップに加工したものを炉に連続投入し回転窯に高温の空気を送り込
むことにより3時間から10時間程度で炭化させている。回転窯を外部から熱して内部の材
料を炭化させる形式もある。炭焼き窯から排出される煙の成分で排気温度(煙突の出口か
10cm入った中心温度)80℃以下の成分では木材から出てくる水分の量が多く,高温に
なるに従い水分量が少なくなる。また高温になると木の成分の熱化学反応により,多種の
化合物が作り出される。内部温度が200℃程度ではフェーノールなどが熱分解している。
内部温度が400℃程度でリグニンが熱分解を行い,自己燃焼を行うようになる。煙の温度が
150℃以上ではタール成分を多く含むガスが多くなり,800℃以上の高温になると燃焼ガスが
多く含まれている。1000℃以上になると空気中の水分(水蒸気)と高温の炭素と酸素が反応
し一酸化炭素や二酸化炭素や水素に変わる。煙の温度が80150℃では材木の中から木酢液
が回収され,活用されている。詳細については木酢液や炭の専門書4,5,6)を参考にされたい。
今回の実験のデータは私が開発した,簡易ドラム缶窯のデータ2)を使用したものです。一般の
炭焼き窯で使用する時は,プロパンガスの使用量は各自で調整をしてもらいたい。そして各自
の炭焼き窯専用の値を見つけることで同じ焼却実験効果が得られると考えられる。排気煙が
特に80℃以下の場合には煙の水分量が多く,煙を焼却するガスの使用量を下げるためには分
留用の煙突を長くして冷却効果を上げて水分量を減らしてから焼却する。その時採取した木
酢液は安全のために廃棄すること。また高温になると燃焼ガスが多くなり自然着火する場合
もある。排気煙が800℃以上の温度になってくると煙は紫煙となり色は薄くなり,排気煙の臭
いや灰は少なくなり問題は減少する。

2.実験の準備と材料

今回使用したバーナーは移動炭焼き教室の事を考えてプロパンボンベ式の草焼きバーナー
2種類(2002年に購入の1400℃と2004年に購入の1600℃のバーナー)と灯油ガス化草焼き
バーナーを使用した。今回の1600℃の草焼きプロパンバーナーは平成16年度足利工業大学
同窓会助成金で購入したものである。

メーカー 形式名   最高温度   燃料     バーナー部の写真

新富士        1600℃    プロパン    写真2-A

新富士        1400℃    灯油      写真2-B

新富士        1400℃    プロパン    写真2-C

写真2-A   プロパン1600℃バーナー 写真2-B  灯油ガス化バーナー 写真2-C  プロパン1400℃バーナー


3.1 実験を行った場所

実験を行った場所は2003620日に群馬県大泉町の文化村でのイベントでの炭焼きで無煙
化対策として始めて実験を行い。20044月2日に群馬県桐生市菱町の下山方の畑に設置し
てある岩崎式高速炭焼き窯IM-4A7型を利用して再現実験を行った。2004722日と2005
212日に足利工業大学総合研究センター東側に設けた炭焼き設備で岩崎式高速炭焼き窯
IM-10S
と移動式炭焼き窯が5台設置されている場所で足利工業大学の同窓会援助により購入
したプロパンと灯油バーナーで実験を行った。この実験で使用した炭化材は竹材(真竹及び
孟宗竹)を使用し,熱源の主材は杉材と米松と竹材を使用した。

3.2排気煙突部分の燃焼方法について

3.2.1排気の途中にT型煙突を付けて,T型の下部より上部に向けて排煙の中に高温度の燃焼
ガスを流し,煙の再燃焼を行った。(写真3-A

3.2.2終端部にT型煙突を付けその下部から上部に向けて排煙の中に高温度の燃焼ガスを流
,煙を再燃焼させた。(写真3-B

3.2.3煙突上部にバーナーを煙突に並行に合わせ,その周りにステンレス板を巻き付けて燃焼
ガスと煙を合わせて再燃焼させた。(写真3-C

写真3-A バーナー取り付け部 写真3-B 先端部の下部 写真3-C バーナーをステンレス板で巻いた


4.実験の結果について


それぞれの写真は燃焼前と燃焼後の排気上部の写真である。

写真4-A窯の排気部の燃焼前 写真 4-B 窯の排気部の燃焼後 写真4-C先端部の燃焼前
写真4-D 先端部の燃焼後 写真4-Eステンレス板で巻いた 燃焼前 写真4-F ステンレス板で巻いた 燃焼後

写真4は9割ほど煙が減少した。

5.バーナーの形状による燃焼安定性について

3種類のバーナーを実用として使った結果1600℃のプロパンバーナー炎が一番安定していた。
これはバーナーのガス噴出孔が燃焼口より1mほどの位置にあり,パイプの中でガスと空気の混
合が優れている。しかし燃焼温度を高くするためにプロパンガスの使用量が多い。1400℃プロ
パンバーナーは燃焼口とガス噴出孔が同じ位置にあり空気との混合が悪く時々消えることもあ
った。これは下向き使用を上向き使用で使用したためと考えられる。灯油バーナーは燃焼口が
高温のガスになるまでの時間がかかりバーナー口から煙が多く出ていた。無煙になるまでに5
分以上かかることが多い。また外気温度や湿度が,この燃焼実験に与える影響はバーナーの燃
焼温度が高いために影響は少ないと考えられる。

6.炭焼き窯から排出される煙と温度との関係

大型の窯も小型の窯も同じように炭焼き窯から出てくる煙の色に関しては,最初の煙は材料の
中から出てくる水分と薪が燃えて出てくる煙が混合した低温で水分を多量に含んだ煙が発生す
る。水分が出終わると木材の中の成分が熱化学反応して煙の中には80℃以下ではメタノールな
どの成分が発生し,80℃以上150℃以下では酢酸などの有益な成分が発生する。この時の色は白
色の色であり,これ以上になるとやや黄色実のかかった色になる。そして400℃を超えると,
た白い煙となる。炭化が終わりに近づくとやや青みの帯びた色になり特に太陽光を通した煙は
綺麗な青紫が見えてくる。最終段階では煙の色は薄い紫煙となり完全炭化すると色は無くなっ
てしまう。実験ではすべての温度帯にバーナー炎を流して再燃焼させ煙が無色になるようにプ
ロパンガス又は灯油の量を調整しながら実験を行った。5)


7.燃焼時間について

2つのプロパンバーナーの燃焼温度は最大で1400℃と1600℃である。このバーナーを使っての
プロパンガスの使用量はほぼ1s/hとなり,実際に煙の燃焼の最低の量で行うと0.5s/h弱であ
った。灯油バーナーは2?の携帯タンクのために平均50分で灯油を給油しなければならないので
使用した量は2.2?/hと推定される。金額においてプロパンは1s約340,灯油は1?約74(20
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1月末現在の最低価格)154円程度となり、プロパンガスを使用すると180円ほどになっ
た。実験では灯油バーナーは高温になるまでのロスがあり,その金額を付け加えると170円ほ
どになる。また灯油バーナーを使用して連続燃焼させるには大型のタンクを設置して使用すれ
ば良いと考えられる。プロパンガスか灯油を使用するかの判断は場所や利便性などを考慮し考
えてみても,どちらとも判断することが出来ないので読者各自の判断にお任せする。


8.まとめと考察

バーナーを煙突と一緒にステンレス板で巻いて燃焼させるよりT型煙突の下部よりバーナーを当
てるほうが排煙の燃焼効果が良かった。特にT型の煙突を使用した燃焼実験から見てのとおり,
焼却により排煙は95%以上無くなり,周囲での炭焼きの臭いもほとんど無くなった。以上の結果
により,この煙の焼却実験は成功したと考えられる。またバーナーと煙突の間の距離は58cm
最良であった。これは空気の取り入れる量との関係と考えられる。しかしながら再燃焼実験にお
ける熱の発生量が多く,この排気熱をそのまま放出させるのはエネルギーの使い捨てであり,
利用を考える必要が有る。次回の研究は,この廃熱の利用の実験と燃焼前後の排気ガスをイオン
交換水に一定時間通し、その水のph値の計測を行い、この実験の確度を上げたい。

謝辞 この実験は平成16年度足利工業大学同窓会助成金により行うことができました。紙上を
借りてお礼を申し上げます。


参考文献

1) 木炭協会の木酢液採取の安全温度規定値,2002

2) 足利工業大学附属高等学校研究紀要 ,11,2004

3) 岸本定吉著,“木酢液がわかる本”,樺経出版,2001

4) 岸本定吉著,“炭・木酢液の利用辞典”,椛n森舎,1998

5) 谷田貝光克著,“良い煙わるい煙を科学する”,樺経出版 2002

6) 岸本定吉著,“炭”, 椛n森舎,1998

7)
杉浦銀冶,鳥羽曙,谷田貝光克著,“竹炭,竹酢液のつくり方生かし方”, 椛n森舎,2004

8) 池嶋康元著,“新木炭・竹炭大百貨”,DHC,2005


付録

一般の方が排煙の燃焼実験をするときにプロパンガスの草焼きバーナーはバーナー部分だけで
2万円以上の費用がかかる。費用を安くするために風呂釜用のプロパンバーナー(写真5)を見つ
けて改造して使うのも一つの方法である。一般に市販されている業務用ガスコンロ(写真6)を三
種類(二重炎,四重炎,六重炎)購入しての使用した実験も行ったが煙突の直径よりコンロの径が
大きいため煙突の内側に燃焼炎を集めるのが大変であり、また燃焼ガスの量が少なく煙の焼却も
あまり上手く出来なかった。それにより草焼きバーナーよりガスコンロのプロパンガスの消費量
が少なく,熱の発生も少ないために大量の煙の焼却には向かないが大型の炭焼き窯では煙の量は
少ないが長時間排煙されるための使用として考えられる。風呂釜のバーナーの熱量は草焼きバー
ナーと同程度またはそれ以上の燃焼熱が発生するが面積が大きいために燃焼熱を絞り込むのが難
点である。

写真5 風呂釜用プロパンバーナー内部 写真6 料理用コンロの一例



ここからは研究紀要の補足事項です。
炭焼の煙の焼却実験

今回は1600℃のプロパンの草焼きバーナー(RE-7)を使用して焼却実験を行いました。

7月30日 天気 晴れ時々雨 風速3m 温度 32℃ 西日本に台風の接近あり

竹酢採取用冷却煙突出口にT管を繋ぎ
106φの管を12本使用したのちの煙の
様子です。炭焼窯の排気の内部の温
度は110度

大分煙りが出ています。
プロパン用草焼きバーナーをT管の下部に
当て下から高温度の空気を送り込み排気
の煙を焼却しています。


煙は見えないほど完全に焼却されています。
1時間に0.5〜1kgの燃料使用率です。
10キロのプロパンガスで10〜20時間程度
使えます。


去年の1400℃のものより格段に煙りが消えています。
この日は台風の影響もあり、雲の移動速度も速かった。

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