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著作権所有によりこの全ての引用を禁止します。2004 By M.Iwasaki


5月30日撮影 太田市金山の遺跡発掘現場の枯れ松の断面

                      足利工業大学附属高等学校研究紀要 第10号 2004.

太田市金山の炭撒きと土壌測定結果について

    岩ア 眞理
    Masato IWASAKI

1.はじめに

 炭による土壌改良では,いままでに大森禎子博士1)が日本や世界各地に出向き,その地
の土壌や木の表面を調査測定した結果,木々の梢枯れは空気や雨水に含まれる酸性物質
の濃縮により起こることを証明してきた.また日本炭焼きの会・会長故岸本定吉博士2)が旧
足尾精錬所から発生した亜硫酸ガスによる酸性土壌(足尾の公害)を炭の持つアルカリ性と
ミネラル成分による土壌中性化事業を提唱し,その意志に共感したボランティアおよび団
体の方達が,炭を持ち合い粉炭にして,その炭を持って足尾の松木渓谷上流の特に梢枯れ
の酷い安蘇沢地域の松林に分け入り松の木の根元に粉炭を埋め,そして周りにも散布し土
壌の中性化を行い松の木の再生を行ってきた.私も6年以上前から各団体の炭焼き教室や
炭撒きに参加し,赤城山や敷島公園の松林に炭撒きの手伝いをし,その結果をつぶさに見
てきた.そして炭撒きによる土壌中和が最良のものであることを確信し,それにより高速
の炭焼き窯を設計,製造及び改良を施し,ボランティアの方々による1日で出来る炭焼き
と炭撒きを行い,酸性土壌の中和ができるようにした3).また足尾の安蘇沢に入り炭撒き
や植林を行い,そして大森博士の指示により土壌採取を行い研究活動をした.

2.太田金山の松枯れ

その後,各方面からの情報により私の住んでいる所から西に見える太田金山の松枯れが
ひどく,1年間に数千本の松枯れが発生していたが,公共機関は松食い虫として防除の為
に殺虫剤を大量に撒いたが松枯れが止まらかった.それにより金山周辺住民への健康問題
も多く発生していた.金山は市民の憩いの里山として昔から親しまれ,蝉やトンボなどの
昆虫が沢山いたが,現在では殺虫剤の影響によりほとんど見られなくなった.その松枯れ
の元凶である酸性雨による酸性土壌化は,ほとんどの太田市民が知らないのが現状であり,
市民に対する広報では松食い虫による松枯れとの説明がなされている.この金山は古くか

ら献上マツタケの産地であったことから,現在でも献上マツタケ祭りの行事が毎年行われ
ている.太田市民に酸性土壌による松枯れを理解させるのは実際に炭による中性化を行い,
松枯れ防止をして最終的には太田金山にマツタケを甦えさせるのが一番良いと思い,粉炭
による土壌改良を実行に移した.

3.太田金山の松を守る松のオーナー制度の利用

太田市の金山の松林を守り長持ちさせるように考え出されたのが松の木のオーナー制度
であり,松の木をボランティア1人に1本貸し出して,その周辺の草刈をし松を雑草か
ら守る運動がある.この制度を利用して炭焼きと炭撒きを実践している根岸進氏と一緒に
太田市の係に話をし,炭による土壌中性化実験用として2人で松の木を20本借り受けた.
そして枯れかかった松の木の下に1本あたり10Kgの炭を埋め込み,その周辺にも炭撒きを
行い松の木の回復に勤めている.また追加実験として借りている場所の周辺にも枠を広げ
60本程の松の根元に粉炭を撒いた.その結果が土壌のpH値として良好に現れている.

4.2003年度のオーナー制度の参加者について

太田市金山の松のオーナー制度が始まり10年が過ぎ今までの経過を市の職員に聞いた
ところボランティア会員は現在450名程度で推移しているとの話があり,2003年度に参加
できた方々は約3割強という話がありました.今回の少ない理由は2003年9月には金山の
一斉清掃日があり,そちらの方に多くの方が参加したため,松の木の草刈をしたので今ま
でより少ない参加となったとの話しがあった.

5.これまでの炭撒きの詳細について

私のホームページ上に書いてあることの発展として,松の清掃をしても枯れてしまうと
いうことが多く聞こえてきたので炭による土壌改良をさせてほしいということで申し入れ
行い,太田市金山の東山公園(水道山)の北西斜面の20本の松を借り受けて炭撒きによる土
壌中和実験を始めた.現在はその周辺を含め幅20m長さ50mの土地に竹の粉炭を年に2
回ほど散布している.竹炭の散布理由は竹炭は木炭に比べてミネラル分が多く木の栄養に
もなる為に使用している.そして最終的な散布面積は幅50m長さ200mに炭を撒き土壌の
回復に努めたいと思っている.それにより炭撒きをした地域のみの松枯れが止まり緑の帯
になると思う.その為に毎年100〜300s竹の粉炭の散布を予定している.

6.松の木の下草刈と炭撒き実験日

2003年5月11日に炭撒きと下草刈りを行い,炭を入れていない上側の松にも炭を入れ
た.そして下草刈りは30m×100mほどを行い,2003年8月には借りている上側20mほど
にあった枯れかかった松10本に約100kgの竹炭の粉末を撒いた.若松林の松の木,約15
本には20kg程の炭を撒き入れた.また枯れかかった松の周辺のpH値はpH4.4〜5.0の酸
性土壌であった.2003年9月29日下草刈りは金山清掃の日に30m×120mほどを下草刈を
行った.そして2003年秋の測定結果は全体的にはpH値は良くなったが炭を撒いた所の上
側でpH値が悪くなっていた.これは上からの酸性土壌からの酸性水が流れ込みその場所の
pH値が悪くなったと考えられる.今までに約60本の根元に約400kgほどの炭を撒いた。
残り山頂まで200m程度となり,あと2tほどの炭を撒く必要がある.

7.借り受け地の土壌の測定結果について

表7は太田市金山の土壌のpH値であり図1は,炭の散布地域の地図である.
表7.調査地点は金山の東山公園水道山北西付近.数値の単位はpH及び採取深さである.

  番号   7.1          7.2        7.3          7.4
場  所   No89の上の松    No89の松     No104の松     遊歩道右側
採取日   炭入れ有り      炭入れ有り    炭入れ有り    炭入れ無し
        pH 深さ(p)      pH 深さ(p)   pH 深さ(p)    pH 深さ(p)
02/04/27  4.1  10        4.0  10      4.1  10     4.1  10
03/05/11  5.4  10        4.8  10      4.9  10     4.1  10
03/09/29  5.1  10        4.9  10      5.1  10     4.1  10
      9/29炭追加      追加無し      追加無し    9/29炭追加
04/01/23  5.3    0        4.3   0       5.2    0     4.4    0
04/01/23  5.1  10        4.5  10       5.3  10     5.0  10
04/01/23  5.4  30        4.6  30       4.6  30     5.2  30


1月23日のデーターは大森博士の指示により正確を規する為に3種類採取した.
 参考値として5月25日の金山の測定結果では借り受けた木の中間部の土壌の表土のpH値は
 pH5.0となっていた.
 今回の測定値の表土はpH4.8,深さ10cmはpH5.5,深さ30cmはpH5.4であった。
図1 太田金山東山公園付近のデーター(03年9月29日)色の濃い部分が炭の散布場所

8.測定方法と使用測定器について

測定方法 採取した土を乾燥させ、2ミリメッシュの網を抜けた土10gに対し
       純水25gを加え1時間経過後下記pH計により測定
pH計 現地計測用 新電元 半導体式pH計 KS723 三点校正タイプ
   確認用   内田洋行 ガラス電極pH計 KT−1S 検定品
計測水は高純度イオン交換水を使用(ICなどの製造に使われる不純物の無い水)
足利工業大学電気電子工学科 伊東・荘司研究室製造

9.金山の土壌の測定結果の考察

今回の炭撒きの結果は炭を入れた箇所において酸性土壌が少しずつ改善されている.
7.1の追加実験では炭の追加散布の効果があった.
7.2は上側地域には炭が入っていないので値が悪化したので再度炭を入れる必要有り.
7.3は炭入れはしていないが上側に大量の炭があるので上中下の層でも良くなった.
7.4の炭入れは炭の効果が見られた。ここは上側の撒いた炭の効果によりpH値が良くなっている。
土壌の酸性度が低い場所の松は将来枯れると思う.その後,豪雨などによる土砂の流失を起こし,
禿山となり保水能力も低下し,少しの雨でも鉄砲水の災害が予想される.
また松の木の下草をすべて刈り取って無くしてしまうと,これも雨により土砂の流失の原因となるので
下草も十センチ程度で残す工夫も必要と思う.

10.木が枯れる理由

 木が枯れる理由についての詳細は大森先生の論文1)を参照のこと.
大気汚染の元凶である亜硫酸ガスや亜硝酸ガスなどが雨や霧に溶け込み希硫酸や希硝酸な
どとして存在し,その雨や霧が松の樹皮に付着し太陽の熱や風による水分の蒸発により濃
縮され濃硫酸や濃硝酸等になり、次の雨により根元に落り,土壌の酸性化を起こし土に含
まれているアルミニュームが溶け出し根から燐酸などの栄養分の吸収を阻害し,木が栄養
不足により枯れ死する.また栄養不足より木の生命力が弱くなると松の木は松脂を作り出
せない状態になり,外皮に傷が出来たときに松脂で塞ごうとする力が無くなり,そして害
虫の阻止が出来なくなり幹の中を食害されて枯れ死するものである.酸性土壌による松の
枯れ木の見分け方は木を切断をし,その切断面を観察した時に赤や青又は紺色の縞や模様
が見られるので小学生でも簡単に見分けることが出来る.

11.マツタケとpHについて

マツタケ菌はpH5.8前後を好むが,松の根を調べたがマツタケ菌の菌糸の確認は出来な
かった.雨水には空気中の二酸化炭素(CO2)や、その他の空気中の成分が溶け込みpH5.6の
弱酸性水になる.酸性雨とはpH5.6以下の値の雨水を言う5).酸性土壌の中性化には粉炭
が一番有効である理由は石灰の散布では土壌中の酸と石灰のアルカリにより急激に中和す
るが,その反応により大量の塩分を作り出し,根を塩漬けにするので逆効果となる.炭に
含れている酸化カリウム,カルシューム,マグネシュームはアルカリ分として徐々に水に
溶け出て中和する.酸性土壌はゆっくりと中和するのが一番であり残った金属類は木が
必要とする成分は再び栄養として根から吸収される.土壌が改善された所では最初は松
露(しょうろ)が生えると言われている.もしマツタケを出したい方は1本の松の木に10kgの
粉炭を用意し,枝の先端の真下を半径としてとして円形に深さ30cm程ひげ根切りをしなが
ら掘り,用意した10kgの粉炭を掘った穴に埋め込め,もし卵や貝が有れば殻の主成分は
カルシュームなので焼いてから粉にして埋めると相乗効果がある.
そして500倍に薄めた竹酢液を一緒に500ccほど散布し埋め戻す.ほぼ3ヵ月後には炭を
埋めた所のpHが改善されるので,1年後に掘ってミミズや昆虫などが確認されれば大丈夫
である.後は,自然の回復力を待ち,そしてpHが5.6程度になったらマツタケ菌を根に感染さ
せる. 5〜10年後にはマツタケが出ることを期待します.2003年度は炭撒きをした場所の生
態がだいぶ回復した.土壌の中和と栄養豊富の為に下草が多く茂るので出るので下草刈り
を忘れずにする事.またpH値が下がった時は,炭を表土や周辺にも再度撒き入れる.

12.結論

竹炭の粉末を撒いた地域は土壌のpH値の改善が見られ,それにより松枯れは止まり,
松の葉の色や葉の出具合も良好になり,雑草も沢山茂り,ミミズ等や昆虫も多く見られる
ようになった.よって粉炭による土壌中和が有効である.

参考事項として付録に松の若木に炭を撒いた物と撒かない物との比較写真及び佐野市
文化会館の南側庭園の松の木の下の表土のpH測定値などを掲載した.
謝辞 炭焼きと炭撒きに協力して戴いた根岸進氏及び純水の製造をして戴いた足利工業
大学電気電子工学科 伊東一臣・荘司和男先生に紙面を借りてお礼申し上げます.

                    文 献
1)大森禎子: “樹木の立ち枯れ調査の簡易分析法",分析化学,pp.465-472,2001.
        理学博士 東邦大学
2)岸本定吉: “炭・木酢液のすごさがわかる本",株式会社 中継出版,2001.
3)岩崎眞理: “ドラム缶の炭焼き窯で炭を大量に作り酸性土壌の山に撒き中性化に活用し
  よう",足利工業大学附属高等学校研究紀要,pp57-76,2000.
4)内田安茂: “地球環境用語大辞典", 学習研究社, 1991
5)大島康行ほか: “理科年表環境編",丸善株式会社,2003
6) ホームページアドレス http://homepage2.nifty.com/sumiyaki/

                    付 録
太田金山の松の若木の写真 03年5月11日に炭を散布 9月29日に撮影と調査 

図A・1炭撒き無し.葉の色が悪い.
       葉の数が少ない.    
       pH4.5    
 図A・2炭撒き有り.葉の色も良い.
       葉の数が多い.
        pH5.5

2004年1月18日に佐野市民文化会館に行ったときに庭園の松を切った跡を見つけ表土
だけを持ち帰り計測した.計測結果はpH5.5の酸性土壌であった.また松の木の枯れ枝
を採取し,その断面を確認したところ紺色の染みが見られ酸性土壌で木の力が弱くなり枯れ
死したものと思う.また別な場所の松の木の伐採された断面からも紺色の染みと虫食いの
穴があったものもあったが,この木から松脂が出ていないので,この松は酸性土壌による
栄養疾患で松脂が出せなくなり食害との相乗効果により枯れ死したと思われる.
環境関係の勉強をしたい方は環境関係に関する本は大量に出回っているが丸善から発
行されている理科年表や理科年表・環境編や環境庁からの文献も参考にすると良い.また
子供向けの本では学習研究社の地球環境用語大辞典4)が勉強用として推薦できる.
現在,群馬県東部地域や栃木県足利地区の里山などの土壌調査を行っているので私の
ホームページ上に発表できると思う.5) 


 

 

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